Hugh Scott-Douglas
Thank You Thank You Thank You Thank You Thank You Thank You
January 11March 9, 2019

ヒュー・スコット=ダグラス
「Thank You Thank You Thank You Thank You Thank You Thank You」
BLUM & POE (東京)
2019111日 (金) - 39日 (土)
オープニング・レセプション: 2019111日 (金) 

地球についてのイメージは、過剰な生産者たちによって広められていく中で、どのような振る舞いを見せるのか?

「... 通常用いられる多くの場合、これらのイメージは、近代の発展についての肯定的なサンプルを一般的に見せるために、綿密に編集されてきたというだけでなく、それらが写真としてパッケージ化されながらも、場所、日時、所有権、視認性やその他の情報源へのアクセスが示されていない限りでは、観賞者 (というよりはむしろ消費者) にとっては、すでに説明されているものでもあるのだ。言い換えれば、イメージ群は、非常に判別可能に見えても、実際は透明性や直接さとは程遠い。」(T・J・ディーモス「Against the Anthropocene: Visual Culture and Environment Today」2017年)

BLUM & POE (東京) では1月11日よりニューヨークを拠点に活動する作家ヒュー・スコット=ダグラスの個展「Thank You Thank You Thank You Thank You Thank You Thank You」を開催いたします。当ギャラリーでは4回目、東京スペースでは初の開催となる本展では、自然環境や、将来に対する懸念といった感情を軽減し、否定する集団的イマジネーションが存在する場に人間が与えるインパクトについての現象をテーマにした「Natural History」と「 Forms of Nature」と題された2点の新作シリーズを中心に紹介いたします。 

スコット=ダグラスは、自己言及的に、あるいは様々な外部の事象を対象として、ハイテクとアナログの手法を巧みに用いながら作品を生み出してきた作家です。日本での前回開催となった、2016年の栃木県立美術館の個展では、自然や、その資本主義との関わりをテーマとしたシリーズを初めて発表しました。その継続した取り組みは、自然環境と産業や資本との厄介な関係性を推し進め、維持しようとする集団的イメージについての種々の事象を場と関連づけたものとして考える都市についての概念を参照しながら、コンセプチュアルなアプローチに基づいて、本展でもこれまでの展覧会に続く形で展開されています。

「Natural History」と題された新作群は、ニューヨークのアメリカ自然史博物館の大広間に位置する「マイルステイン家展示室の海洋生物」で展示されている野生動物のジオラマの外観を捉えたデジタル写真を元に転写した絵画作品です。海洋のリアリティとは逆に、ディスプレイ化されたプラスチック製品によって演出された同館の展示環境は、人間が影響を及ぼす領域外に存在するものであり、理想化され、固定化された生態系のイメージの刷り込みを我々に与えるものです。まるで遠くの事物の輪郭をぼやかす空気遠近法のように、ここで示されている美術館的な視点は、植民地政策の歴史を伝える役割を持つと同時に、何らかの科学的な権威性を押し付ける役割も果たしているのです。この逆説的な状況は、模造された地球についての楽観的な視座が生み出した展示空間と共に、鑑賞者に対して提示されることで、それがまるで将来的に約束されているかのようなポジティブな見方を我々に示していると言えるでしょう。 

この逆説さは、権威的な博物館での公開された展示室を通して、気楽に消費されるカウンター・ナラティヴとして、海洋環境が直面する現実問題の先送りや反論的な意見を人々に表明しています。資本主義的なやり方でイメージを流用することで、スコット=ダグラスは、連続的に手を加えながらこの疑似的な世界を捉え、加工していきます。陳列ケースのガラスのバリアとカメラのレンズから始まるこのプロセスには、デジタル写真が使用され、そのデジタルデータは、プラスチック製ボディのアナログライカの機能に似たコンピューター上でのエフェクト加工によって、手を加えられていきます。そして、データの転送作業と転写印刷といった行程に続き、アナログの4色活版印刷の質感や陰影に近づけたスクリーントーンのビニールフィルムを用いてコラージュされます。さらに、ここで生まれた加工物は、スキャンやコピーといった過程を経て、最終的にはインクとレジンでできた層の上に出力されます。この複層的な工程によって、理想化された自然を提示する空間を生み出す素材であり、アナログ的手法のシミュレーションを可能にする技術であるプラスチックが複製するプラスチックな世界の表象、元の素材が持つ抽象性、そして、対象となる環境の現実といった要素が作品の中で発現していくのです。

「Forms of Nature」は、ウォール・ストリート・ジャーナル (WSJ) 誌から抜き取ったイメージ群とパウル·ヴォルフによる写真集「Forms of Life: Botanical Photo Studies」を組み合わせたコラージュ作品のシリーズです。ヴォルフによる同書は、彼が好んだ小型のライカで彼の故郷ドイツのミュールーズに自生する植物を写した写真集です。新作となる本シリーズでは、スコット=ダグラスは、繊細に細部を捉えた白黒のコンポジションと、WSJ誌のデザイン戦略という要素を組み合わせてモンタージュを行なっています。出版業界の再興がすでに否定されていた2008年に、広告やラグジュアリーグッズを多く掲載する季刊誌として創刊された歴史あるビジネス誌である同誌の別冊として、この出版物の存在は、受け入れるか、それとも滅びるか、という不可避的状況を象徴的に示唆していると作家は考えます。同作品においては、現代の資本主義的な生存戦略を掲げた産業の枠外に位置する自然界についての表象と、それと相反する要素がアナログ的なコラージュによって縫い合わされるように表現されています。 

ヒュー・スコット=ダグラス
1988年英ケンブリッジ生まれ。現在はニューヨークを拠点として活動。近年は、栃木県立美術館 (2016年) や、ザ・アーツ大学ローゼンワルド=ウルフギャラリー(フィラデルフィア、2015年)で個展を開催し、コロンバス美術館 (2014年・オハイオ州コロンバス)、マサチューセッツ現代美術館 (2014年・マサチューセッツ州ノースアダムス)、エリ&エディス・ブロード美術館 (2013年・ミシガン州イーストランシング) で行われた数多くの主要なグループ展にも参加している。また、その作品群は、アートギャラリー・オブ・オンタリオ(トロント)、コルビー美術館(メイン州ウォーターヴィル)、ダラス美術館 (テキサス州ダラス)、ピノー・コレクション (ヴェネチア)、ゲーツ・コレクション近代美術ギャラリー(ミュンヘン)、サンフランシスコ現代美術館をはじめ、各国でパブリック及びプライベートコレクションとして所蔵されている。